ディズニーのアニメ映画「ムーラン」が大好きです。というのは、このブログを読んでくださっている方はよくお分かりかと思います。早速、関連記事を貼っておきます。
・好きすぎるシャン隊長の吹き替え俳優の話はこちら
・ムーランが好きすぎてDハロで仮装した話はこちら
・花木蘭伝説について色々御託を並べている話はこちら
私のムーラン好きをご存知の方には意外に思われるかもしれませんが、実は私は実写版(2020)のムーランに手を出せずにここまできていました。理由は単純です。
シャン隊長がいないからです。
主張したすぎて文字がクソデカになってしまいました。
私がいかに隊長が好きかは上記のこちらの記事などをお読みいただけるとよくわかるかと思いますが、東アジア男児のいいところを煮詰めたような、真面目で、勇ましく、部下を大切にし、立場と情の間で揺れながらも、最後には自分の手で決断を下す、ちょっと奥手な若隊長が大好きなんですね。
それから(というかそれ以前の問題ですが)、アニメ版のムーランを見たことがある方は浮かんでくるかと思いますが、隊長なしでどうやって話組み立てるんや? という、もっともな疑問もありました。
隊長が消された理由としては、上司との恋愛はコンプラ的にアウト、ということらしいのですが、私はそれを知った時ブチ切れてしまいました。
この、ボケカスがよぉ〜〜〜〜!!!!
李家の御曹司に、格違いとわかっていながらも傍から思いを寄せるムーランと、そのムーランを食事の一つにも誘えない隊長がかわいいんじゃんかよ〜〜〜〜!!!!!!
何もわかってねえな〜〜〜〜!!!!!!
はあ、はあ……(←叫び疲れて肩で息をしている)。
まあそういうわけで、私はずっと「隊長のいないムーランなどディズニー版ムーランではない」と底意地を張り続け、実写版を見ていなかったのですが、この度西安に旅行をして中国の文化や空気を体感で知り、ディズニーが彼女の物語を実写でどう描いたのが気になってきました。
私は自分が気まぐれだという自覚があるので、この気分を逃したら次いつ見たくなるかわからんぞ。と自分に言い聞かせ、一念発起してディズニープラスを契約し直し、試聴してみることにしました(*1)。
*注1:本当は、西安→上海間の飛行機で見ようと思ったのですが、香港simを契約して旅行していたため、ディズニープラスを契約し直そうとしたら香港ドルでの支払いを求められ、日本で入会するよりも高くて断念したという裏話があります。なお、西安旅行記もそのうち書きます。
◎全体を通して
思ったよりアニメ版の焼き直し感があって驚きました。もっと全然違うのかと思いましたが、全体の流れとしてはほとんど同じと考えてよさそうです。原作が同じ以上当たり前と言えばそうなのですが、もっと違うのかと思っていました。
あと、冒頭の「今からお話しするのは、数多ある木蘭伝説の一つ」というナレーションが入るので、これがかなり視聴者に安心感を与える感じがあります。アニメ版との違いも、ほとんどこれで解決できていると思います。
そういう中でも、まず初めに挙げるべき一番大きな違いとしては、ムーシューがいない、というのかなと思います。が、全体を通してミュージカル/コメディ要素を廃しているので、全体の作品の雰囲気には合っている改変だと思いました。ただ、ムーシューだったものが龍ではなくて不死鳥になっていて、これは龍だとデカすぎるからやろな。と思ったらちょっと笑えてきました。うーん、でも、龍で見たかったな。
◎主人公・ムーランについて
かなり良かったと思います。
個人的に好きなのは、男装した時の利発そうな少年の雰囲気です。
同じ木蘭伝説を題材に取った日本語の小説に『風よ、万里を翔けよ』というのがあるのですが(上記のページで熱弁しています)、この中に次のような記述があります。これは賀廷玉(後述)が木蘭を見た時の第一印象の描写です。
(自ら十七歳の男であると申告した彼女を見て)「十七歳とは思えなかった。せいぜい十五歳だろうと、賀廷玉は推測した。顔だちは繊細で睫毛が長く、なかなかの美童ぶりだが、気の強い敏捷そうな少年で、……弟が生きていればこの少年のようかな、と思いもした。」(田中芳樹、新装版『風よ、万里を翔けよ』pp.43-44)
実写ムーランの男装ぶりはまさにこんな感じです。この描写を地でいく感じがすごくあって、大変好感が持てました。これでこそ木蘭だよね、という感じすらしてきます。
それと関連して、アニメ版との大きな違いとして挙げられるのは、男装のムーランが驚くほど喋らないことです。リトマなの?笑
これは考えてみれば当たり前のことで、喋りすぎると男ではないことがバレるからですが(一人だけ声が高くて焦る、という描写があります)、そのせいで彼女のキャラクターのイメージがかなり生真面目でクールビューティ系に見えてしまうのがちょっと惜しいなという気がしました。
アニメ版が好きな人であれば、冒頭の妹とのやり取りやその暴れぶりなどの細かい描写から、ムーランが破天荒でお茶目なかわいい子だというのを汲み取ることができますが、この映画で初めてムーランの物語に触れる人は彼女のキャラクターを掴み損ねそうだな、という印象があります。これはリアリティを突き詰めた実写版である以上仕方のないことですが、そのあたりを恐れずに描写して印象を覆したアニメ版はすごかったのだな、と思って、とても感心したのでした。
補足。視聴前に見た感想の中に、「髪を切るところはやって欲しかった」というのがあって、それは確かにそうだなという気はしたのですが、途中、馬に乗りながら鎧を外し、髪を解くシーンを見て、ああ、これがやりたかったから髪を切らなかったのだな、とわかりました。どちらがいいかは見る人によると思います。私はどちらも好きです。
個人的には、アニメ版の断髪シーンの音楽が大好きなので、あの音楽が丸ごと使われたシーンは見たかったですね。
それから、コメディ要素をなくしたので入れにくかったのだろうと思いますが、クライマックスの女装シーンは、代替でもいいので何か入れて欲しかった気がしています。あのシーンこそ、ムーランが男でも女でもない、ただ一人の人として自分を認められるシーンだと思うので……。
◎隊長のこと ー董司令官と洪輝
個人的にはこれがいちばんの気がかりだったのですが、蓋を開けてみたらとても良かったです。
アニメ版では最重要人物であったシャン隊長が消された代わりに、二人の人物が追加されています。壮年の董(タン)司令官と、若い平隊員の洪輝(ホンフイ)です。
Wikipediaを読む限りでは、董司令官だけがアニメ版のシャン隊長に当たる人物だという注釈がされていますが(立ち位置としてはまさにそうですが)、実際にはこの二人が隊長の立ち位置を二人で手分けして担っている、と解釈した方がよさそうです。ついでに洪輝は私の中の賀廷玉(*2)にあたる人物でもありますが、恋愛要素はほぼありません(洪輝がムーランを気に入ったような描写がほんのわずかだけあります)。
*注2:ディズニーのアニメ版ムーランには出てきませんが、例の『風よ、万里を翔けよ』に登場するムーランの相手役です。京劇などにもこれに準ずる役がいるもよう。なお、これまではあまり意識していませんでしたが、実写版を見てからアニメ版を振り返ると、シャン隊長は半分くらい賀廷玉でもある気がしてきました。
個人的に嬉しかったのは、隊長の役割を二分しているこの二人が、どちらもとてもいい人だったことです。特に壮年の司令官が悪く描かれていないのが、私はとても嬉しく感じました(*3)。アニメ版のチ・フーがいないので、彼がいない分、この董司令官を厳しいだけの嫌な上司しても良かっただろうに、隊長の良さの根本を殺すことなくキャラクターだけを新しく作り直すという形に落ち着けてくれたのがとても嬉しかったのです。司令官、ワンチャン、アニメ版の隊長よりも優しいまである。隊員を殴らないし。
*注3:マジで意味のわからない話ですが、司令官の日本語声優が井上和彦で、私にとって「馬に乗った偉い井上和彦」といえば某イヤーエムブレムの某すまぬ仮面なので、すまぬ……したら最悪だなと思っていて、全然そんなことがなかったのも嬉しかったです。
ていうか、こいつら二人とも、めちゃ話が早いです。ムーランが女だとわかるところも、心を開くまでがアニメ版の隊長よりだいぶ早いんだが??????? と思いました。これも、隊長の役割を二人分に分けたことによる改良かなと思います。目的のために手段を選ばないことを知る老齢な司令官と、若く柔軟な平隊員の二人だからこそ、この性別バレから受け入れまでのシーンを巻けたというか。逆に言えば、ムーラン以外の隊員の命運もその一身に背負っている、若く経験の浅いシャン隊長が、追放という形で彼女を救う代わりに決断を先延ばしにしたのは、仕方がない事のような気がしてきます。
ていうか、二人に分けていい感じってことは、アニメ版の隊長、一人で仕事しすぎでは? この感想は実写を見なければわからなかった事で、個人的には面白い気づきでした。アニメ版は、ムーランの物語であると同時に、隊長の成長の物語でもあるので、彼はどうしても役割が大きくなってしまいます。隊長を二人分に分けたことにより、ムーランにフォーカスを当てられる機会が増えたのも良かったなと思います。
ただ、この話の早さはムーシューがいないこととも関連がありそうです。ムーシューをキレさすという手間が省けるので、話が早くできるんですね。笑
◎撮影地について
今から書くことは、歴史地理的な印象のみに基づくものであり、私個人の特定の政治的な立場を明らかにするものではないことを先に宣言しておきます。
この映画は、いわゆる新疆ウイグル自治区において撮影されたようで、当時は若干物議を醸したようです。その話も、この映画を見るのを若干躊躇った理由の一つなのですが、よく考えてみたら、当時の騎馬遊牧民との戦争の話を西安よりも西北の地で撮影したいというのは、まあ、歴史を鑑みたらそうだよね……と納得してしまう気がしてきました。実際、戦が起きたのはそっちの方だろうし。
◎その他の登場人物について
ムーランに妹がいたり、彼女が仲良くなる隊員の数が少し多かったりと、多少の改変はありますが、全体的にあまり「改変されて嫌だなあ」という感じはありませんでした。あと、布利可汗(ボーリー・カーン)の俳優さんの雰囲気がアニメ版の単于(シャンユー)にめちゃ似ている笑笑 これはものすごく良かったですね。
物議を醸しそうなのは「魔女」仙娘(シェンニャン)の存在で、何か言われるとしたらまず彼女なんではないかなという気がしますが、私としてはこれは別にええんちゃう? という印象です。彼女の存在は視聴前から知っていて、知った時に抱いた懸念点(そんな奴出して違う話にならんか?)と、この最終的な感想を照らし合わせると個人的には意外な気がしますが、実際に見てみたら、アニメ版と実写版に共通の物語の根幹部分にはあまり茶々を入れないキャラクターでした。物語を邪魔している感じがあまりなかったので、嫌悪感を抱かなかったというか。
それから、ワイヤーアクションがかなりしっかり取り入れられていて、そのあたりはとても面白かったです。それと関連して、ムーランがなぜ隊で活躍できたか、ということに対して「彼女が特別な才能を持つ者だから」という解釈を付け加えたのは、アニメ版の「ありのままの自分を活かし、頭の回転で勝負する」という方向性を弱めた形にはなりますが、コメディ要素を廃したリアル路線で行くには良い落とし所だったのではないかな、と思っています。
◎おわりに
そういうわけで、思ったよりも好きになれる話で安心しました。そもそも、アニメ版のムーランを見たのち、日本人が書いた別の話を読んでしまうくらいには木蘭伝説そのものが好きになっているので、そういう人が見る分には特に問題はないのではないかな、という気がします。
逆に、「木蘭伝説はこの解釈じゃなきゃ嫌」というのがある方にはあまりお勧めできません。
今回の作品は、ディズニーが新しいムーランの話作りてえな、となったときに「せや! 原作にはおるけどアニメにおらん、平隊員の相手役出したろ!」となったようなのは、近年色々言われがちなディズニーの実写化の改変の中ではかなり妥当。というか、私でもそうしたかも。ありがたいことです。
隊長がいなくなって、ムーランが他のやつと恋愛をしていたら私はブチ切れたかもしれませんが、隊長がいないので恋愛もほぼ削られていて、その分スッキリして良かったな、と思います。アニメ版のムーランと隊長の仲がちゃんと守られた感じがしてホッとしました。
アニメ版が好きな身としては、大きな驚きはないけれど、あの物語を新しい形でもう一度見られる、という、素直で素朴な喜びが得られる作品だったかなと思います。私のように、アニメが好きすぎて実写を見る気になれない、という方も、流し見してみたらいいんじゃないかなと思えました。私は結構好きですね。おわりです。

