※この記事は、中国旅行中に作成したものですが、大陸からのブログへのログインがうまくいかなかったため、旅行後にアップロードしています。
じつは、中国旅行中です。
といっても着いたばっかりですが。しかも、目的地まではもう一飛びしないといけないのですが。
で、数ヶ月前のこと、中国旅行の前に何か中国にまつわる本を読んで、少しでも親しみを持ってから行こう、と思い立ったはいいのですが、結局読みきれずに行きの飛行機の中で読むハメになりました。計画性なさすぎ。
それでいろいろ小説を探していて、行き先は西安(かつての長安)でしたので、長安に関する本が読めたらいいなあ。と思っていました。長安について、世界史が苦手な私(*1)が知っていたことはほとんどなかったのですが、逆に言えば日本史は得意だった私です。一人、阿倍仲麻呂という人のことを授業で扱ったことを思い出しました。
*注1 私の世界史の苦手具合については、ゴーストアンドレディの記事を参照のこと。
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも
百人一首にも収められている有名な歌です。阿倍仲麻呂はこれを詠んだ人で、十六で遣唐使として唐へ渡ったのち、七十半ばで人生を閉じるまで、生涯日本の地を踏むことはなかった悲劇のお役人です。
この人のことなら少し知っているぞ。
と思いました。逆に言えば、この人のことしか知らないのですが。それで探していてWikipediaの記事で見つけたのが、この『翔べ麒麟』(辻原登、2001年)でした。阿倍仲麻呂の話だと聞いて、これはいい、と思ったのです。
◎盛大な勘違い
阿倍仲麻呂ってどんな人か知らねえなー。月を見上げている絵を知っている気がしますが、ぶっちゃけあれは孔子の絵だったかもしれない。さすがに知らなすぎだろ。と自分でも思いますが、それならなおさら本を読む意味があるかも。と思い読み始めました。
まさか、主人公が阿倍仲麻呂ではないとは一ミリも思わずに……。
よく考えたら、上のWikipediaの記事も、「阿倍仲麻呂を題材とした作品」としか書いていません。主人公とは請け負っていないのです。アホだ。
いや、実際には阿倍仲麻呂は主人公の一人であり、彼が主人公ではないとは一概にも言い切れないのですが、どちらかと言えば彼の周りで活躍することになった架空の若者をいちばんの主人公に据え、彼から見た阿倍仲麻呂、そして唐を描いた、という話なのでした。
その本当の主人公である彼の名前は藤原真幸(ふじわらのまさき)とされていて、物語の中での出自は明らな形で描かれているものの、実際の歴史書にその存在を確認することができない、というタイプの、架空の主人公です(歴史小説や歴史ファンタジーを数冊読んだことがあれば、あああれか、となると思います)。
◎藤原式家
主人公の真幸の父親は実在した人物ということになっています。藤原広嗣というのがその名前で、高校で日本史を選択した人なら聞いたことがあると思います。反乱を起こして死んだ貴族なのでそれなりに有名なんですね。
真幸は広嗣の取るに足らない庶子のひとりで、だから日本の歴史には残っていない、という形をとっている(という体の架空の人物)みたい。私はこういうのがとても好きなので、この導入は嬉しかったです。
あとは、私は荻原規子代先生のせいで、藤原家は式家びいき。なんといっても、私の大好きな「薄紅天女」の主人公苑上が藤原式家の出ですから。
苑上は平城天皇と嵯峨天皇の間にいる架空の同母妹です。彼らの父は桓武天皇ですが、母親が藤原式家の娘で、これの父の兄が真幸の兄の広嗣。
うおー、わかりにくい。
だから、真幸と苑上の母はいとこということになりそうです。苑上から見た真幸は、えーと、なんと言うんだ? 真幸の子が、苑上のはとこということかな。

◎真幸という男と、その周りの人たち
人々に関する感想です。
まず肝心の真幸ですが、カラッとして明るく、血の気の多い若者で、何より女好き。やはり歴史小説の主人公とはこうでなきゃなあ。と私が思うタイプの若者でした。とてもよかったですね。大好きです。
彼と並べたい存在として、進士及第をめざす美少年・李春もとても好きなのですが、コイツに関してはもう何もかもがネタバレなので、何か書くのはやめておきます。この「コイツ」という書き方がすでにネタバレといえばそうなんですが。真幸とのコンビがとても好きですね、と書いてはおきます……。
折りたたみの機能を発見したので、ネタバレを少し書いてみます。
タップすると開けます。
李春、いわゆる「ムーラン」の物語の派生の一つである、「従軍から戻ったのち皇帝に召され、あまりに嫌すぎたので自害する」というタイプの花木蘭として登場したのでは、とずっとヒヤヒヤしていて、気が気でなかったです。生きて真幸といっしょになれて、ほんとにほんとによかったー。彼女が奈良を好きになってくれることを願うばかりです。そして、この二人の子が、苑上のはとこということになりますね。
そのほか、真幸と綿密な関係がある二人としては、小秋と飛飛もとてもよかったのですが、小秋はちょっとかなしすぎます。彼女のきょうだいに真幸が何も言えないのも、仕方がないと言えばそうなのですが、それにしても、という。
飛飛については、李春の秘密を知らない真幸が「髭も生えない坊ちゃん」みたいにからかったところで、李春の代わりにものすごい剣幕で怒るところがとても好きでした。名前の通り軽やかでかわいらしく、人を想う気持ちのある彼女が私はとっても好きでしたね。李春とは意外にも名コンビかもと思います。
その他の男では、やはり外せないのは高良と新羅王子かな。王子いい人でよかったなと思います。高良、おまえ😭
ここまで、細々した人の話ばかり書いていますが、私も女ですので(何かに抵触しそうな書き方)、大局を見る時代小説も好きでありつつ、そこで生きて死んでいった男たちや女たちを見るのが好きなんですね。
◎肝心の阿倍仲麻呂について
阿倍仲麻呂……作中では中国名の「朝衡」で呼ばれているので何だか違和感がありますが……は、なんというかこの一冊で描かれる5年くらいの間にいろんなことが起きすぎており、ヤバい人だったな……。というのがいちばんの感想です。
彼についてはいろいろな資料にいろいろなことが書いてあるので、ここで起きたことはほとんど本当のことばかりなわけで……。孔子の絵と間違えるレベルだったことを考えると、読んでいって良かったなと思います。茉莉さんもよかったです。
それから、私は文化史がとても苦手なのですが、阿倍仲麻呂を始めとし、彼の仲間たちはみんな文化人なわけで、そのらへんの交流がまあまあ面白く描かれていたのも嬉しかったです。というか、ようやく暗記ができた。遅すぎだよ。王維、顔真卿、李白がちらちら出てきて、李白といえば杜甫だけど、杜甫は出てこんなあと思ったらコイツも出てきた。彼らの人となりや、役人としての生き方を知ることができて、ありがたかったです。
歴史の流れとして大局を見る描き方と、個人にフォーカスして彼らの機敏を描く、というのの塩梅が個人的にはかなり好きな具合でした。すごく良かったなー。宝塚とかに舞台化してもらえないかなと思います(下手にドラマにされるより、宝塚で脚色モリモリの突き抜けた感じにして再現の難しさによる違和感を無かったことにしてくれた方が嬉しい)。
全体的にすごく好きな感じでした。女の人たちがみんなすごく好きだなあ。長恨歌の使い方も意外な感じですごくよかった。
◎旅行と関係したかなあ?
さて、最後まで読んでみて何か生産的なことがわかったかと言われれば、私がエンタメとして受け入れてしまったため「おもしろかったなあ!」くらいしか言うことがないのですが(実際とても面白かったです)、今回行く予定の青龍寺や、長安の外壁の様子などがちょいちょい出てきたので、少しは予習になったかなと思います。
長安は中国の都で、その周りをぐるっと外壁が取り囲んでいるのですが、この話によれば「高さ6メートル、幅10メートル」「外周は山手線一周より長い」そうです。ほんとかよ! (現在は違いそうですが、この話が書かれた当時の山手線はそうだったのかも)
さて、この記事は飛行機の中で書いているわけですが(アップロードは上海で乗り継ぎの飛行機を待つ間になりそうです)、ほんとにそうか、見て確かめてきたいと思います。帰ってきたら旅行記も書きたいなー。いってきますー。おわりです。

